トロンシンポジウムリポート

Conference


12月5日(木)

イメージ

第13回トロンプロジェクト国際シンポジウムのコンファレンスは、12月5、6日の2日間にわたりにTEPIAホールにおいて開催された。今年は、東京大学総合研究博物館において坂村プロジェクトリーダーが指揮しているデジタルミュージアムや話題のPDA端末用BTRON「TiPO」などTRONの多方面での広がりを反映した盛りだくさんの内容であった。

オープニングセッション・General Chairあいさつ
中野隆生(三菱電機株式会社)

中野氏は、まず「実り多きシンポジウムになることを願う」と期待を込めて述べた後、TRONプロジェクトの近況として、PDA用BTRONの開発、IPCの調査ではITRONは組込みOSの分野では世界で3番目に普及したこと、中国でのTRONの関心の高まりについて紹介した。そして、今年のシンポジウムのメインテーマは「500ドルコンピュータとデジタルミュージアム。インターネットでは個人と世界とがface to faceでつながる。このような分野にこそTRONの技術を生かしていくことができる」と、新しいTRON像への期待感を表した。

基調講演・"TRON and The Digital Museum"
坂村 健(東京大学)

イメージ

「TRONとデジタルミュージアム」と題して、 デジタルミュージアムの概観と、デジタルミュージアムと トロンプロジェクトとの関連について発表した。

デジタルミュージアムは、トロンプロジェクトの提唱する 「どこでもコンピュータ」のコンセプトにのっとり、公共的な スペースで不特定多数のユーザが利用するコンピュータとしての 研究である。

そのデジタルミュージアムのシステム設計の哲学は、"openness"と いうことである。ここで言うopennessとは、障害者の方々も含め 全ての人に公開することや、空間的、時間的制約を撤廃して展示を 行うことを意味している。

この哲学を実現するために、資料をデジタル化しデータベース化する デジタルアーカイビング、画像だけでなく音や3次元のレプリカなどを 利用したマルチメディア展示、ネットワークを利用した仮想環境と しての博物館、といった技術がデジタルミュージアムで重要となる。 また、古典などの文献をデータベース化するときなど現存の 文字コードでは不十分であることや、コンピュータを利用している ユーザ同士が共有する環境などが必要となる。

具体的にデジタルミュージアムでは、10万字の漢字を扱える TRON文字コードを用意し、そこでマルチメディアデータを容易に扱える ブラウザ、複数ユーザが仮想環境を共有しそこで話し合えるシステム、 展示物の説明などを手軽に取り出せるPDAのような携帯型端末、 それから音声によるインターフェースを用いて公開する 予定になっている。

招待講演・アジアのコンピュータプロジェクト
田辺孝二(通産省)

招待講演として、3年に亘りシンガポールを中心にアジア各国の情報産 業の調査活動を行っておられる田辺氏が、 アジア各国の情報産業の政策の最新動向について説明をなさった。 アジア諸国では、インフラ整備や人材開発が政府主導で 行われており、実際にシンガポールのIT2000構想など先進的な試みが成 果をあげている様子を豊富な例で示し、情報産業がアジアの経済成長の 牽引役になっていることを解説された。

各プロジェクト最新情報・"Current Status and Future Directions of the ITRON Subproject"
小林康浩(富士通)

「Current Status and Future Directions of the ITRON Subproject」 として、ITRONサブプロジェクトの近況が報告された。

高機能化されつつある現状の組み込みシステムでは、 そこで用いられるOSに対する要求を挙げ、それに対するITRONの特徴を 説明した。また、最近の成果としては、μITRON仕様ver.3.02の作成、 μITRON仕様のチェックシートの作成をあげた。最後に国内では 広く用いられているITRONであるが、今後は国内だけでなく、 国外での普及を促進して行くとしている。

"The Current Status and Future of the BTRON and Human-Machine Interface Subprojects"
越塚 登(東京大学)

「The Current Status and Future of the BTRON and Human-Machine Interface Subprojects」と題して、BTRON・HMIそれぞれの近況報告が 発表された。

BTRONの報告ではここ数年の動向として、マイクロカーネル化された BTRON3仕様、インターネット接続、PDAでの利用、多国語処理などに ついて説明し、また今後の予定として、インターネット環境として マルチメディアMUDシステム、キオスク端末への利用を、多国語処理 として日本語10万字機能、るびの機能などをあげた。 HMIの報告では、多数の電子機器が用いられている近年の環境をふまえ、 統一したHMIの必要性を説明した。

近年の動向としてはTRON HMI仕様書の改訂、HMIを構築するシステムに 関する研究がされているとし、今後、HMI構築システムの構成、 HMI仕様書の英文化を予定している。

"An Update on the CTRON Subproject"
大久保利一(NTTソフトウェア)

「An Update on the CTRON Subproject」では、技術研究、製品実装、 プロモーション活動に3項目に分けて発表した。

技術研究では、CTRON仕様の維持、仕様の検定、 マルチメディアネットワークカーネルを、製品実装では、CTRONを 用いた製品の動向、トロンチップではないRISC系チップ上 CTRON製品について、プロモーション活動では、中国における技術 セミナー、μCTRONプログラムコンテストについて説明があった。

最後に今後の活動としてマルチメディアネットワーク関連の 新技術の研究について説明した。

"A Development Model for Disabled User Support Functions in the TRON Project: The Work of the TRON Enableware Research Group"
武藤敏央(イネーブルウェア研究会)

「A Development Model for Disabled User Support Functions in the TRON Project: The Work of the TRON Enableware Research Group」 と題して、イネーブルウェアに関する発表がされた。

障害者にとってのコンピュータの役割をあげ、そのイネーブルウェアの 重要性を説明し、そのTRONを用いたアプローチについて、 他のアプローチと比較して説明をした。また、現在までの イネーブルウェアの動向ををアメリカのそれと比較しながら発表した。

テクニカルセッション「ITRON&CTRON」・"OS Validation Programming Language: CVAL"
南 進(NTTソフトウェア)

NTTソフトウエアの南進氏は、CTRONの規格評価システムであるCVALに ついて発表を行った。CTRONは、実装された基本OS部の自動的に評価す る方法はある程度整っているが、拡張OS部の規格の妥当性を検証するシ ステムが存在しなかった。基本OS部同様のツールを開発するとシステム が肥大化し過ぎるので、システムコールの記述を容易にし、デバック環 境と一体化した対話型を用いることで、例外処理を簡略化が可能になっ た。CVALの効果として、コーディングやテスティングのための作業量が 半分に、全体の作業量では75%のまで減ったことが示された。

"Prioritized Inter-processor Synchronization in an ITRON-MP Implementation"
王 才棟(東京大学)

ITRON関係の最新の研究成果として、東京大学坂村研究室の王才棟氏に よるマルチプロセッシング環境におけるITRONのロッキングアルゴリズ ムについて発表が行われた。ITRON-MPの対象となる共有メモリマルチプ ロセッサのリアルタイムOSでは、二重のスピンロックが必要となる。

と ころが、通常の優先度順スピンロックでは、ネストをした場合に優先度 逆転の問題によりプロセッサー数の増加に伴ない急速に性能が低下する。

この問題を解決するために、中断機能付きの優先度継承スピンロック機 構を実装して解決する方法について提案と評価がなされた。

テクニカルセッション「デジタルミュージアム」・"A Design and Evaluation of the Multi-User Virtual Environment Server System for the Digital Museum"
鵜坂智則(東京大学)

「A Design and Evaluation of the Multi-User Virtual Environment Server System for the Digital Museum」では、 デジタルミュージアムで用いられるマルチメディアサーバに関する 研究の発表がされた。 この発表では、特にマルチユーザ仮想環境としてのシステム構築に ついての説明がされた。

デジタルミュージアムでは、大量のデータ処理に対応するため 複数のサーバで管理することになる。

また、仮想環境を複数の小さな環境に分割して管理することにより 多数のユーザの同時利用をサポート可能としている。 最後にそれらの実装と実験結果について発表した。

"Real-Time Browser for the Digital Museum Available with Low-Cost Terminals and Low-Bandwidth Networks"
由良俊介(東京大学)

「Real-Time Browser for the digital Museum Available with Low-Cost Terminal and Low-Bandwidth Network」と題して、 デジタルミュージアムで用いられる、クライント側の設計に関する 研究発表をおこなった。

この研究では安価な端末、電話回線のような低容量回線といった クライアントを想定しており、そのような端末上でも画面の 表示品質を高くたもつために、表示するオブジェクトの優先度を決め、 それに基づいて通信回線の容量の割り当てや、描画ルーチンの 割り当てを行う。この方式を採り入れた場合と、採り入れない場合の 画像描画の様子を紹介し、その有効性を説明した。

12月6日(金)

チュートリアル・"The $500 Internet Computer"
H. Neugass(Microsystems Consultant)

Henry Neugass氏によって、最近の最もホットな技術の一つである ネットワークコンピュータ(NC)についてのチュートリアルが行われた。

NCとは、インターネットにアクセスするために特化して設計された コンピュータのことである。 その一般的な特徴として、 WWWブラウジングインターフェースを持っていたり、 ネットワークを介してソフトウェアのダウンロード/アップロード を行ったり、家電としての要求から価格が500$程度であること などが挙げられる。

氏は、NCが出現した背景やNCを構成する各部品の技術についても 説明された。 また、家電として設計する際のファクターについても触れられ、 本当の意味で家電と言えるNCは今のところ見当たらないとも 述べられた。

最後に、NCに関する問題点と予想される今後の動向に触れて、 このチュートリアルを終えられた。

"Smartcards Become an International Technology"
J. J. Farrell III(MOTOROLA)

Motorola社のFarrell氏によって、スマートカードに関する話が 行われた。

スマートカードは、20年ほど前にフランスでクレジットカードの 不正使用を減らすために開発、導入されたものである。 単なるメモリカードと大きく異なるのは、スマートカードには マイクロコントローラチップが埋められている点であり、 データを格納するのみならず操作することもできる。

ヨーロッパの多くの国では日常生活で使用されており、 また、アトランタオリンピックにおいても使用されるなど、 スマートカードの市場は飛躍的な成長を遂げており、 国際的な技術になったと言える。

最近、Sunと共同でJava Card APIのアナウンスを行ったこと などからも、スマートカードに対する注目の高さが伺える。

"Benefits of Java Chips"
前川昌秀(Sun Microelectronics)

Sun Microelectronics の前川昌秀氏によって、Java Chipに ついてのチュートリアルが行われた。

アーキテクチャ・ニュートラルという特徴がJava言語普及の 最大の要因であり、現在、我々が試みているのは、 Javaのバイトコードと呼ばれる中間言語のインタプリタを 直接チップ上に実装するということである。 これがJava Chipであり、Java Chipの製品としてpico Java Iを 開発している。

Java Chipがスタックマシンであるということを特に考慮して チューニングを行ったので、ベンチマークでは効率を60%程度 向上することができた。 picoJavaの性能は、多くのベンチマークテストで計測した結果、 同じクロック数のマシン上のVMやJIT(Just-in Time Compiler)と 比べても、10倍近くの差が出た。

テクニカルセッション「BTRON」・"The B-right: μBTRON-specification OS for PDA with an Affordable Window System"
松為 彰 (パーソナルメディア)

パーソナルメディアの松為氏によって、PDA用のOSの仕様である μBTRONに準拠したB-rightについて、説明がなされた。

最近、汎用的なOSを搭載しネットワーク機能を持ったPDAに関心が 高まっているが、 こうしたPDA用のOSには、制限されたハードウェア資源と 少ないバッテリー容量でも動作することが要求される。 トロンプロジェクトにおいて設計されたBTRON仕様は、 ウィンドウシステムを持つコンパクトかつハイパフォーマンスなOS ということで、PDA用のOSとして注目されていた。

μBTRON仕様は、BTRON仕様をPDA向けに改良したもので、 HMI仕様の変更、それを実現するためのOS仕様の変更、 およびパワーマネージメント機能の追加などが行われている。 μBTRON仕様に準拠したOSであるB-rightを開発し、 その評価を行った。

"Development of the BTRON-BrainPad"
渡辺洋幸(セイコー電子工業)

渡辺氏は、BrainPad TiPOの開発のいきさつについて発表を行った。 近年のイントラネットの普及によって、モバイルへの需要が急増してい る。

PDAには、ネットワーク対応、容易なアプリケーション開発、小型軽量、 長電池寿命が要求されている。 さらにPDA用OSには、日本語処理、使いやすいHMIが必要である。 これらの条件でいろいろとOSを探した結果、BTRONを採用した。 パーソナルメディアと共同開発したOS B-rightは、 十分に要求を満たしている。

"Design of VACL: A Visual Script Language System which Controls and Extends Applications on a Graphical User Interface Environment"
重定如彦(東京大学)

東京大学坂村研究室の重定氏によるBTRON上GUI環境におけるエンドユー ザ向けを目的としたVACLスクリプト言語の実装について発表がなされた。

VACLでは、アプリケーション強調を実現するために付箋メタフォーを導 入して、オブジェクトに付箋(スクリプト)を貼り付ける形でプログラミ ングしていく様子を実際のファイルアプリケーションを用いて説明を行っ た。残念ながら、共有対話オブジェクトアーキテクチャがないBTRON1B 上では、利用できないようであるが、BTRONユーザからは高い関心を集 めた。

パネルセッション・"Technologies for Network Computing"

パネリスト:越塚登(東京大学)、松下正好(沖電気工業)、川谷聡(セイコー電子工業)、松為彰(パーソナルメディア)

イメージ

まず、越塚氏が、ネットワークコンピューティングの時代に向けての技 術的課題とTRONとの関わりを解説した。

松下氏は、ネットワークを支えるインフラについてセキュリティや信頼 性の問題を取り上げた。 川谷氏は、PDAをネットワーク化するねらいやその技術的課題につい て話した。

松為氏は、家庭での情報機器が連係することにより新しい機能が生まれ ると語った。

その後、討議に入り、PHS端末安売りの話や、バックボーン爆発の話に ついて、またセキュリティ問題について、意見が交わされた。


ホームTRONSHOW'96|Conference|TEPS'96


Copyright (c)1996 by TRON Symposium Steering Committee